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常に無謀で向う見ず
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Side:H
【奇と意】

(本編続きから)

昔から人の感情というものには敏感だったとは思う。

特に向けられていたものが敵意や畏怖と言ったものであったから、余計に敏感に感じていた。
むしろだからこそ敏感になっていたのだ。人は感情というもので行動が左右される生き物なのだから。
感情を知れば心内を知ることも容易くなる、心内を知ることが出来れば後は此方が望むように誘導することも出来るだろう。

今一番向けられる感情は『好奇』だ。
理由は分かりきっている。この右腕だ。

今もこうして唯食事をしているだけでも物珍しいと、言ってしまえば見世物小屋の商品だとでも取れる視線を投げつけられている。
飯屋の店主も左手を使い食事を始めたせいか、その時は怪訝な表情だった。が、右腕に気付けば申し訳なさそうに視線を下げ、それからは時折好奇の視線を向けてくる。
以前はそういう視線がこそばゆく、人気が少ない時間帯等を選びもしたが、このような生活が五年と続けば既に慣れたものだ。ここまできてしまえばもう堂々と眺められた方が余程マシというものだろう。

この隊商の幼子の奇術師も、そのような『好奇』という感情に似ている。
感情があまりにも真直ぐ過ぎて当初こそ戸惑いはしたが、そうと気付いてしまえば後はどうということはない。最も、彼女が己の何を気に入っているのかだけは未だに検討もつかないのだが。
そもそも幼い子供には『畏怖』のような感情を持たれることが多い。子供からして見ればこの右腕は恐怖の対象にしかないらしい。その上此方は感情が読めない口調だ、無理もないだろう。
それを考えれば、あの子は随分と肝が座っていると取るべきだろうか。

どちらにしろあまり明るい感情を抱かれることは少ない。そもそもそのような感情を抱かれるなどあり得ないと笑い飛ばすことさえ出来るだろう。
精々『好奇』の目に曝されるのがお似合いだ。故に。



手首で押さえつけたピタを無理矢理に開く。口を使っても良いのだが、食堂だと流石に無礼だろう。
開いたピタを閉じないように跡を付け、その中に摘んだハッスを放り込む。それは幾らか皿に散らばった。
こぼすことは珍しいことではない。気にも止めず次の具にとケバブに手を伸ばしたとき、その手の上に何かが差し出された。
それはハッスにヒヤール、それにケバブが沢山と詰め込まれたピタ。その先に視線を流せば、ヒジャーブの下の顔を赤く染め慌てるように目線が逸れる。
「…た、食べづらそうだったし、私が丁度食べるところだったから」
そうと言うわりには少女一人が食べる量には多すぎる。言ってしまえば、成人男性が口にするのに丁度良い量というところか。

真っ直ぐ過ぎる感情だ。彼女は隠そうと必死なのだろうが、その様子では嘘もまともにつけないだろう。
何処と無く、胸の奥が軋む。これはもう、『好奇』などではない。

伸ばした手を軽く引き、そのまま彼女が差し出したピタの前に。そしてそれをそ、と押し返した。
「それは君の分だ、君で食べると良い。僕なら大丈夫だ」
彼女が言い返そうと口を開く前にケバブを摘み上げ、己のピタに放り込む。中身もそこそこに無造作にそれを掴めば一つ大きくかぶりついた。
それを見た少女は行き場をなくした手と目を泳がせ、暫く此方の様子を伺っていた。が、依然と受け取るつもりがない様子に諦めたのか、やがてピタを口に運んだ。
具材が多く詰め込まれたそのピタは、やはりどこか食べづらそうだった。



可笑しいと、奇妙だと思われることは構わない。
だが、『好意』だけは向けられてはいけない。
そんな綺麗な感情を抱かれる資格なぞ、己にはないのだ。

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ナワール(@ムツホシラさん)、雰囲気だけコランサイファ(@秋野さん)お借りしました。
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