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常に無謀で向う見ず
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Side:H
【花を摘む】
(※ホシラさん宅の【二つ目の偶然の話】を先にお読み下さい)

(本編続きから)

「ねぇ、おじさん」

コランサイファは興味津々と声を踊らせた。
手と視線は離したくないのか忙しく動かすことを止めず、その手が荷物を散らす度に頭上の蝶がひらりと揺れる。
「あのお姉さんっておじさんの知ってる子なの?」
彼女がそう問うのは先日スークで出会った少女のことである。
此処の街娘かとも思ったが、数日経ち再び見掛けたのはこの宿だった。恐らく、この隊商に入ったのだろう。
そこまでならばそうと珍しい話ではない。問題はここからである。
何が縁か、常ということでないにしろその少女が自分の後をついて来るのだ。

「さて、どうだったか」
「でもでも、お姉さんはおじさん知ってるみたいじゃない。皆も見たって言ってるし」
誤魔化すよう首を傾げて見せたが、彼女は意地でも知りたいと食い下がる。
苦くも判らない反応でもあった。件の彼女は数歩下がって追って来るのではなく、決まって柱や壁に隠れようとするのだから。更にそれが幼いコランサイファですら気付ける隠れ方でもあるせいか、噂に早い者達があれやこれやと話を作り出し始める始末だ。
先の街での彼のジンを思い出せば、溜息が漏れた。

だが正直に言えば、引っ掛かる所がないと言えば嘘になる。それはスークで見掛けたとき、あの花飾りを手にとってからの小骨だ。しかし。
「………覚えがないな」
何か事象に関わった際、あまり印象に残らなかった場合記憶に残さないのが己の性である。ならば、今この状況を見るに多少なりとも思うことがあった筈なのだ。
それでも取るに足らないことだったのか、今後関わることはないと思ったのか。
すっきりしない心地だ。

首を捻っていると、コランサイファが唐突に声を上げた。どうやら、荷物から何が見つけたらしい。
「あまり人の荷物を散らかさないでもらいたいんだが」
苦言が漏れる。先程から彼女が漁っていた荷袋は男の物だった。
少女は少々散らかしすぎた荷物を見渡し、照れるように笑んだ。
「ごめんなさい、後でちゃんと片付けるから!ねぇねぇ、この箱なぁに」
そう言ってコランサイファは両手で掲げたのは黒い正方形の箱だった。
嗚呼、と一つ声を上げる。
「装飾の類いを入れてる箱だ。今は付けれない物だから暫く開けてないが」
「へー、そういえば結構好きだって言ってたよね。…アレ、結構固いや」
「無理に開けようとするな」
「ん、しょ、っうわぁ!?」

言うが早いか、こじ開けられた箱は弾け飛ぶように中身を部屋中に散らすこととなった。
散り散りになった首輪や耳飾りに、つい呆れた顔になる。
「だから言ったろう」
「わーん、ごめんなさい」
「………ん?」
ふと、勢いに尻餅をついた彼女の近くに何か転がっているのが目に止まった。
箱の中から飛び出してきたのだろう、見覚えのあるそれを拾い上げる。

数日前に見掛けた物より幾分不格好であるが、一針一針丁寧にに作った物であるのが良く分かる。
己が好み買った物ではない。それでも己の手に渡り、こうして今まで箱に仕舞われていた物。



それは、小さな花飾り。



靄が緩やかに晴れていく。その奥に見える姿は懐かしく、今と変わらぬ面影を映す。
どうりで、何処かで見たことがあると思っていた。
「……嗚呼」



あの子か。



*



再度訪れた市場は夕方ともあってか閑散としたものだった。件の幽霊騒ぎも関係しているのだろう、足速に家路を急ぐ子供の姿も目立つ。
彼等と擦れ違いながら奥を目指す。こじんまりとした小さな露天。先日見掛けた同じ場所に、彼女の店はあった。
閑散としているのは彼女の店も同じなのだろう、更紗の奥の表情はどこか退屈そうだ。
その表情も、客が足を止めたことに気付けばすぐさま商人の顔へと変わる。

そしてそれは驚愕の顔に、そして瞬く間に紅潮していく。随分と目まぐるしいものだ。
「客を置いていく店主が何処に居る」
慌て逃げ出す彼女をそう呼び止めれば、奥に置かれた荷袋から此方を伺う顔が覗き出る。また逃げられやしないかと不安ではあったが、彼女なりにどうにか慣れてくれたようだ。

「な、なななな、何よ!」
「そう言ってくれるな、折角商品を褒めに来たんだ。昔より上手くなったと」
先に見つけた花飾りを、並べられた商品の隣に添える。こうして二つを並べてみれば、成る程、確かに随分と上手くなった。
「何でまだ持ってるのよ!」
「君がくれた物だろう」
「そんなのさっさと捨ててよ!」
まさかまだ持っているとは思ってもいなかったのだろう。酷い言い様ではあったが、ますます紅く染まるその顔はどこと無く嬉しそうだ。
実際は貰っていたことも忘れていたのだが、水を差す真似は止めておこう。

「………わ、」
言いかけた言葉に自然と顔がそちらへ移る。丁度そこに彼女の目があったものだから、少女は驚いてか荷袋に顔まで隠してしまった。
「…ワルも、同じ隊商に入ったからっ」
「嗚呼、知っている」
「何で知ってるの!」
やはり彼女なりに上手く隠れていたと思っていたらしい。少し上擦った声が面白い。
「…あ、あの…だから、その、これからっ、」
声で勢いをつけたかのように再び少女の顔が覗く。此方を真っ直ぐに見ている、何かを言おうと口元が微かに震えた。

しかし続く言葉はなく。
「…っ!……!」
言葉にならない声が漏れたかと思えば、呼び止める間もなく少女はどこかへと駆けていく。
空いた店主の席に小さなルフが姿を見せる。
『モウシワケアリマセン。テンシュハタダイマ…』
無機質な詫びの声が店に響く。残された花飾りを手に取り眺め、その手で己の額を撫でた。



どうやら、思うよりも面倒なことになるようだ。
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ナワール(@ムツホシラさん)お借りしました。
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