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常に無謀で向う見ず
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Side:B
【さぁ、どちらに】

(本編続きから)

男が空の瓶を差し出すとアルハーは慣れたようにそれを受け取った。
開かれた天幕の端に置かれた樽を引き寄せ、杓子を落とす。一度掻き回ししゃばしゃばと音を立てさせ、その中身を瓶へと移し替えていく。
やがて瓶は満たされ、元の男へと戻された。
「ほらよ、いつも通り銅貨三枚だ」
アルハーが告げるとバラカートは請うその手に銅貨を放る。
植物に与える為の水の買い付け、男と知り合ってから長く続けているやり取りである。
「一回還元水試してみねぇか?草にかけりゃ育ち良好病気知らず」
「いらねぇよ、ンなもん」
これもまた、慣れたやり取りである。
馴染みの返しに目の前の商人はそうかいと笑う。

「今日は酒はいいのか?」
「…片手で足りるぐらいしか買ってねぇだろ」
「前と比べりゃ十分多い量だろ。どうなんだ、上手くやってんのか」
言ってしまえば嫌らしくもある笑みをアルハーが浮かべる。それに対しバラカートは怪訝だと眉をひそめた。
何を言おうとしていることは分からないでもない。だが、それに素直に応える理由は男にはまたない。
「何の話だ」
「とぼけんなよ、ほらあの別嬪の魔法士のよ、」
「煩ぇ、黙れ、行っちまえ」
「そこまで言うかぁ!」
強制的に切り上げられた話はそれ以上進めることは許されなかった。

アルハーが樽に蓋を落とせば、用事も終いだとバラカートは踵を返す。
返したその先、視界に映った人物を認めれば、嫌な顔を見たと顔をしかめた。正直、男にとっては面倒という気持ちの方が大きいのだが。
ハミルコはバラカートがそちらに顔を向けたと知ると、大袈裟な程に腕を振り、目一杯の笑顔を見せて走り寄って来た。
「せんせーい!せんせ、」
瞬間、その笑顔が凍った。口元がへの字に曲がり、目元に影が落ちる。
そしてまたすたすたと歩き出したかと思えば、バラカートの前を素通りして行く。先には、今にも身を乗り出しそうな男が居た。眉間に皺を寄せ、いつも以上に目付きを悪くさせながら。

「やぁ、アルハー。相変わらず樽なんて庶民的なものを使っているのかい。それじゃあいつ漏れ出してしまうか分からないじゃないか、いい加減壷に移したらどうかな」
「莫迦野郎、それじゃ重すぎて商売にならねぇだろ。それに羊革使ってんだから簡単には漏れねぇよ」
「重さに拘って壷を選ばないなんて愚行だよ、こんなに素晴らしいものを使わないなんてね!」
「分かってねぇな、俺の商売で使う必要なんてねぇんだよ。瓶でもねぇと中身も見えねぇじゃねぇか」
顔を合わせて間もない内に言い合いは始まった。内容はなんてこともない。恐らく、互いに言い合うことが目的なのだろう。
「にしても君の商品は値段と質があってないと僕は思うね!」
「碌にうちのモン飲まねぇ奴が口出しするんじゃねぇよ」
「それでも分かるぐらいの違いというやつさ!」
どちらにしろ、下手に関わり合いになる前に退散した方が良い。そう判断したバラカートはゆっくりと、バレないようにと足を下げる。
だが見計らったように次の言葉が飛んできた。

「バラカートもそう思うだろ?」
アルハーはそう問うや杓子でバラカートの足元を突いて彼の足を止めさせる。その動きに男はやれ、と足を止める。
が、正直話は全く聞いていない。頭を振るった。
「…何がだ」
「だがら、こいつに俺のモンをケチつける資格はねぇって話だ!」
男は隠す気もなく面倒臭そうに頭を掻いた。
一つ、アルハーの天幕から酒の瓶を持ち上げるると、そうだなと口を開く。

「質が伴ってないなら俺も考えないといけねぇな」
「あ?何言って、」
「先生もそう思うだろう!」
予想に反した答えを受けたアルハーとは裏腹に、ハミルコは歓声にも似た声を上げる。
そうともそうともと、大きく頷くと一際目立つ瓶を指差した。
「僕の知る限り此処に並べられている商品はもっと値段を下げるか、値段にあったものを並べるべきだね」
「ほう、それは今までお前に払った分にも還元してもらわねぇとな。最近は酒も買ってやってんだ」
「お、お前ら…」
無論バラカートがハミルコの言うことを信じているわけではないことはアルハーも承知である。ハミルコに至っては相変わらず言い負かすことが重要なのだろう。
それを知っているからこそ、アルハーは余計に肩を震わせる。

「お前らこんなときばっか結託してんじゃねー!」

――――――――――――――――――――――――――――
アルハー(@ずらさん)、ハミルコ(@荻白さん)お借りしました。

学者は自分に得がある方の味方です。

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