Side:Q
【珍道中】
（本編続きから）
駱駝に積まれた荷を解き、ムニラは大地にその内の一つを降ろした。
子供と合わせているとは言え五人分の荷物である、全て降ろしきるにはまだまだ時間がかかる。
それでも文句を言わずに作業に当たる彼女をクタイバは傍らで見上げていた。
「いつもすまないねぇ、お前さん」
自らの子供程の身長しかないクタイバにとって、駱駝の背丈は脚を折っているとは言えとても届く高さではない。
最も、それはジンとしての飛行能力を差し引いての目算であり、荷に手をかけようと思いさえすれば楽に届きはする。
しかし所詮は子供の身体である。体力のなさは子供のそれと然程変わりはしない。それをムニラが承知しているが為、荷降ろしに言及することはない。
「そないことはえぇからあんたは降ろした荷物開けといて。子供らもちゃんと見といてな」
「うん、大丈夫だよ。さっき元気に遊びに行ったからねぇ」
「それ全然大丈夫やない！」
既に辺りから姿を消している子供たちにムニラは慌て、クタイバは何がいけないのかと首を傾げた。
「お、精が出るな、お二人さん」
天幕を張り、荷を並べる一団の中から一人此方へと歩み出た。身一つで出た彼は、その身の軽さを表すように硬い土の上を軽々と駆けてくる。
薄色なその風貌は、どこか見た風でもあった。
「野営の荷下ろし？大変だなぁ。あ、俺ツクモって言うの」
「なんや、見習いの人？手伝ってくれるん？」
手伝い、という言葉を聞いた瞬間ツクモはそのゆるりとした袖を忙しくぱたつかせた。
「へ？いやいやいやーほら、俺力ないしさ。役に立たないと思うんだ。あ、呼んでくることは出来るよ、力持ち沢山居るし」
つまりは、言ってしまえば野次馬である。
ムニラはいらないと手を振り、再度荷の紐に手をかけた。
やる仕事はないのか、ツクモは駱駝の周りを駆けては戻ってみたり、ムニラの手元を何となしに眺めてはまた周るなど、ある意味此方も忙しなく駆けずり回っている。
そうしている内に荷が半分程降ろし終わった頃、人だかりの中からまた一人此方へ歩む人影があった。
「こら、汝はまたサボっているのか」
威圧的なその言葉に、ツクモはびくりと身体を震わせた。冷や汗を一粒垂らし、ゆっくりとその場で振り向けば、思う通り赤毛と蛇をもした入れ墨を持つ護衛―ハーティムがそこに居た。
「他の見習いは隊の仕事をこなしているというのにお前は何をしている。それもわざわざご婦人の元に来たかと思えばそれを手伝いもしないとは」
「いや、逆に邪魔になるんじゃないかなぁ、俺の場合はさ」
「思うことよりも行動だ。男である汝は女性よりも率先して力仕事をやるべきだろう。そもそも、」
ハーティムは視線を逸らし、金眼をクタイバへと向けた。
意味を捕らえかね、クタイバは唯にこりと笑んで見せる。
「妻ばかり働かせておいて自らは動かないとは無様極まりない。もっと深く自覚するべきだ」
「そ、そないこと言わんといて。ちゃんとその後の荷解きはしてくれるし、」
つい、と恥ずかしげに視線を泳がせながら、ムニラは擁護の言葉を向ける。
しかしその続きはハーティムによって遮られた。
「子供の前なら殊更そうだ。子供は親の背を見て育つと言う、男親ならば息子にもっと威厳というものを見せたらどうだ」
空気が止まるとはこのことを言うのだろう。
クタイバとムニラの子供は先から遊びに行ったきりであり、未だ戻って来る様子はない。
辺りに居る者は忙しなく野営の準備に掛かり切りだ。急がなければもうそろそろ日も落ちる、留まる余裕すらないのだろう。
ハーティムを除く三人が言葉の意味を理解した正にその時、当人がその予想を確定させるように頷いた。
「しかし良く似ている子だ。余程汝を受け継いでいるのだろう」
その瞬間、ツクモは耐え切れず笑いを吹き出した。抑えも効かないのだろう、不思議がるハーティムに返事もままならない。
一方、ムニラは唇を震わせ、啖呵を切るように声を上げた。
「何言うとるん！うちの旦那は、」
「坊やは良い子だねぇ、飴ちゃんをあげようね」
「クタさんもちゃんと否定してえな！」
その後説明を受けたハーティムが顔を赤く染めたのは言うまでもない。
――――――――――――――――――――――――――――
ムニラ（@卍さん）、ツクモ（@nina6さん）、ハーティム（@千影さん）お借りしました。
色々と全くの偶然だったのですが、いっそのこと私はネタにすｒ
ID802の日なのです。
子供と合わせているとは言え五人分の荷物である、全て降ろしきるにはまだまだ時間がかかる。
それでも文句を言わずに作業に当たる彼女をクタイバは傍らで見上げていた。
「いつもすまないねぇ、お前さん」
自らの子供程の身長しかないクタイバにとって、駱駝の背丈は脚を折っているとは言えとても届く高さではない。
最も、それはジンとしての飛行能力を差し引いての目算であり、荷に手をかけようと思いさえすれば楽に届きはする。
しかし所詮は子供の身体である。体力のなさは子供のそれと然程変わりはしない。それをムニラが承知しているが為、荷降ろしに言及することはない。
「そないことはえぇからあんたは降ろした荷物開けといて。子供らもちゃんと見といてな」
「うん、大丈夫だよ。さっき元気に遊びに行ったからねぇ」
「それ全然大丈夫やない！」
既に辺りから姿を消している子供たちにムニラは慌て、クタイバは何がいけないのかと首を傾げた。
「お、精が出るな、お二人さん」
天幕を張り、荷を並べる一団の中から一人此方へと歩み出た。身一つで出た彼は、その身の軽さを表すように硬い土の上を軽々と駆けてくる。
薄色なその風貌は、どこか見た風でもあった。
「野営の荷下ろし？大変だなぁ。あ、俺ツクモって言うの」
「なんや、見習いの人？手伝ってくれるん？」
手伝い、という言葉を聞いた瞬間ツクモはそのゆるりとした袖を忙しくぱたつかせた。
「へ？いやいやいやーほら、俺力ないしさ。役に立たないと思うんだ。あ、呼んでくることは出来るよ、力持ち沢山居るし」
つまりは、言ってしまえば野次馬である。
ムニラはいらないと手を振り、再度荷の紐に手をかけた。
やる仕事はないのか、ツクモは駱駝の周りを駆けては戻ってみたり、ムニラの手元を何となしに眺めてはまた周るなど、ある意味此方も忙しなく駆けずり回っている。
そうしている内に荷が半分程降ろし終わった頃、人だかりの中からまた一人此方へ歩む人影があった。
「こら、汝はまたサボっているのか」
威圧的なその言葉に、ツクモはびくりと身体を震わせた。冷や汗を一粒垂らし、ゆっくりとその場で振り向けば、思う通り赤毛と蛇をもした入れ墨を持つ護衛―ハーティムがそこに居た。
「他の見習いは隊の仕事をこなしているというのにお前は何をしている。それもわざわざご婦人の元に来たかと思えばそれを手伝いもしないとは」
「いや、逆に邪魔になるんじゃないかなぁ、俺の場合はさ」
「思うことよりも行動だ。男である汝は女性よりも率先して力仕事をやるべきだろう。そもそも、」
ハーティムは視線を逸らし、金眼をクタイバへと向けた。
意味を捕らえかね、クタイバは唯にこりと笑んで見せる。
「妻ばかり働かせておいて自らは動かないとは無様極まりない。もっと深く自覚するべきだ」
「そ、そないこと言わんといて。ちゃんとその後の荷解きはしてくれるし、」
つい、と恥ずかしげに視線を泳がせながら、ムニラは擁護の言葉を向ける。
しかしその続きはハーティムによって遮られた。
「子供の前なら殊更そうだ。子供は親の背を見て育つと言う、男親ならば息子にもっと威厳というものを見せたらどうだ」
空気が止まるとはこのことを言うのだろう。
クタイバとムニラの子供は先から遊びに行ったきりであり、未だ戻って来る様子はない。
辺りに居る者は忙しなく野営の準備に掛かり切りだ。急がなければもうそろそろ日も落ちる、留まる余裕すらないのだろう。
ハーティムを除く三人が言葉の意味を理解した正にその時、当人がその予想を確定させるように頷いた。
「しかし良く似ている子だ。余程汝を受け継いでいるのだろう」
その瞬間、ツクモは耐え切れず笑いを吹き出した。抑えも効かないのだろう、不思議がるハーティムに返事もままならない。
一方、ムニラは唇を震わせ、啖呵を切るように声を上げた。
「何言うとるん！うちの旦那は、」
「坊やは良い子だねぇ、飴ちゃんをあげようね」
「クタさんもちゃんと否定してえな！」
その後説明を受けたハーティムが顔を赤く染めたのは言うまでもない。
――――――――――――――――――――――――――――
ムニラ（@卍さん）、ツクモ（@nina6さん）、ハーティム（@千影さん）お借りしました。
色々と全くの偶然だったのですが、いっそのこと私はネタにすｒ
ID802の日なのです。
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