忍者ブログ
常に無謀で向う見ず
[177]  [176]  [175]  [174]  [173]  [172]  [171]  [170]  [169]  [168]  [167
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。



Side:H
【残尾】

(本編続きから)

部屋に招き入れるやいなや、彼は地に頭を擦り付けた。
用件は粗方予想をつけていた故にさほど驚きはしなかったが、それにしては随分と唐突なものだ。
彼の気質を考えれば今こうして水煙草を吸っていることも咎められそうなものだが、果たして目に入っているのやら。
「本当に、申し訳なかった。この通りだ」
それからというもの、彼はそれしか口にしていない。返答に困っているのは確かだが、このままずっと他人の頭を眺めているのは気持ちの良いものではなかった。
「…一先ず、顔を上げてくれないか」
そう促して漸くムハンナドは頭を上げた。視線が変わらず地へと向けられているのは、未だ残る悔悟の為か。
「もう歩けるのか、回復が早いな」
「……あんたはどうなんだ」
「まぁまぁだ。背の傷がまだ響くが」
返した言葉にムハンナドの頭がまた下がりかかる。煙管で瓶を鳴らし、それを制した。
それでも彼の顔色は一目に分かる程暗く陰りを見せている。

地に伏せていた両手が強く握られた。嗚呼、そこまで握れば皮膚を裂いてしまうだろうに。
「…俺の不手際だ、同士討ちなどあってはならないことだった」
「あってしまったことは仕方ない。責めるべきは互いじゃない」
「だが俺はあんたを殺そうとした!」
「死にかけたのは君だろう」
己の短刀に仕込んだ毒は遅効性であったにせよ、死に至ってもおかしくはないものであった。あの時、ハーティムが割って入らなければ彼はこうして此処に居ないだろう。
運が良かったな。そう軽口と共に甘ったるい煙を吐いた。

「どちらにせよ、次に用心するだけの話だ。尾を残すな、足に絡む」
これ以上、此方から言うことも聞くこともない。もういいだろうと、煙管で入り口を示し下がるようにと伝える。
だが、思うよりも彼は強情のようだ。
「……それでも、先にあいつを倒していれば、あの状況は回避出来ただろう」
怪訝に目を細めた。
「何が言いたい」
「あそこでとどめをさし損ねたのは俺だ。俺が、俺が止まっていなければ!」


嗚呼、なんだ。単純な話だ。

『自分が強ければ』

彼は、そう言いたいのだ。


思わず煙管を噛んだ。音が聞こえたのか、ムハンナドの肩が揺れた。
「ムハンナド君」
呼び掛けた声に反応はなかった。それを良しとし、そのまま続ける。
「それはつまり…逆を言えば君は、僕は戦士としてここまでとでも言いたいのか」
「!そんなことは誰も、」
「ムハンナド君」
呼び掛け、制す。
「驕るな」

「先のことは君なりに悔いていることがあるだろう。だが、それは僕とて同じことだ」
水煙草の灰が燻り、塊がぼろと崩れた。今日の分はこれで仕舞いか、興が削がれたことも否めず若干物足りなさがある。
残る煙を吸い込み、甘い香りを吐き出した。
「賊との戦い方はこの隊商の誰よりも熟知していると自負している。幻術を使われることも珍しくない。それを知っていて、これだ」
包帯に巻かれた半身と右腕に目を配り、左肩を竦めた。
その仕種が彼にとっても痛いことは、彼がすまなそうに目を逸らす前から分かりきっていたことだ。
「今回は互いに互い憂うことがある。だが、それをずっと負われるとまるで僕が足手まといのようだ」
「そんなつもりはない。俺が足りていなかったから、」
「それが驕りだと言っている」
思わず漏れた苦笑に首を振り、説教じみてきたなとその苦笑が自嘲に変わる。

「足りないということはまだ伸びる自信があるんだろう。君の言い方はまるで僕にはそれがないようだ」
そこまで言われ漸く、ムハンナドは此方の言うことを理解したようだ。
久しぶりに交わった視線の先に、見開かれた金の瞳があった。
「僕の負った傷は僕のものだ。責任も含めて、君にとやかく言われる筋合いはない。君に対してもそれは同じことだ」
今度こそ、これ以上何もない。
何を返されようが、此方の信念は変わりはしないのだ。

「さぁ、いらない尾は切っていけ。捨てるのが嫌なら、喰ってしまえば良い」

――――――――――――――――――――――――――――
ムハンナド(@Nasatoさん)お借りしました。

【死闘】のその後になります。
蟠りはぽいぽいしちゃおうね。
PR
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新CM
最新TB
プロフィール
HN:
櫟戦歌
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
最古記事
(01/01)
(10/30)
 
(11/01)
(11/04)
(11/08)

Copyright (c)呟き事 All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog  Photo by Kun   Icon by ACROSS  Template by tsukika


忍者ブログ [PR]