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常に無謀で向う見ず
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Side:C
【憧れに強請りて】

(本編続きから)

くたびれたランプを手にそろりと足を進める。辺りはどこも薄暗い。その上この不安定な足場ではうっかりしていると足を取られそうだ。
誰かについて来てもらえば良かっただろうか。周囲に焚かれた篝火と己の小さな光では少々頼りないものがある。

ふと、天幕の陰から光が揺らいだ。誰かのランプなのだろうか、そこには影が映る。
勘は当りのようで、ランプを携えた姿を此方に見せた。
その見知った剃頭にクライズクラウは親しげに声をかける。
「バシットゥの旦那!」
呼び掛けに応えるように彼は振り向いた。だが、クライズクラウの顔を確かめると急に慌ただしく表情を変え始める。
それは何やら焦っているように見えた。
「あ、ああ!申し訳ありません、クラウ様!」
「…?」
バシットゥはその丸めた頭を何度も下げ、頻りに謝罪を口にする。
しかし此方に謝られる心当たりなどはなく。クライズクラウは唯首を傾げるしかない。
だが、その理由は彼の次の言葉で知ることになる。

「申し訳ありません、今日は星読みの護衛がありましたでしょうか。でしたら僕はそのっ」
あまりの動揺ぶりにクライズクラウは思わず一つ笑ってしまった。吹き出しそうになるのを堪えただけまだましというものか。
その笑いに何か気を悪くしたのかと思ったのだろうか、バシットゥは萎縮してしまったようだ。
クライズクラウはそんな彼に、親指を立て上を見るように促す。
バシットゥが見上げるとそこには満天の星空…ではなく、無機質な岩の天井が広がっていた。
「此処じゃ俺らの仕事はお休みさ。暫く旦那に頼めねぇのは残念だが」
軽く笑う姿を見て安心したのか、どこか照れ臭そうに彼は頭を掻く。
「嗚呼…そうで御座いましたか。すいません、僕はてっきりお約束を忘れてしまったのかと…お恥ずかしい」
「いいって、いつも世話になってるのは俺の方だしな。今、見回り交替してきたのかぃ?」
えぇ、とバシットゥは頷いた。
「クラウ様は…散歩にいらっしゃいますか?やはり星空は恋しいもののようで」
「まぁ、そんなもんだな。出稼ぎで来てるから、仕事してねぇとなんか申し訳ねぇ気もするし」
手持無沙汰だと、苦笑いの表情を作る。賃金を貰いこの隊商に参加しているのだから、仕事がなければ落着かないというのが正直なところだ。
そんな心内を察したのだろうか、バシットゥはそのコホルに彩られた眼を細めた。
「お休みを頂くというのも大切で御座いましょう。このような道も滅多とありません、折角の機会と見てみるのも如何でしょうか」
「休みなしの護衛が良く言うぜ」
からりと笑って見せる。彼はというとまた下手なことを言ってしまったのかと、弁明の言葉を出そうと口を頻りに動かしている。
紳士な態度を見せたかと思えば、言葉一つでこうも焦り出す。クライズクラウは彼のこのような性格が気にいっていた。
とにかく人のことを気にかけ過ぎなのだろうが、そのころころと変わる表情は見ているだけで楽しいものだ。
最も、彼を好くそれ以上の理由もあるのだが。

「…ま、適当に他の手伝いながら今回は過ごすさ。だが、夜が暇なのは性に合わねぇから、」
ランプを顔の高さまで上げる。バシットゥから見る彼女の顔は実に楽しそうに映っているだろう。
口角を意地悪く吊上げる。
「旦那これから時間あるんだろ?また話聞かせてくれよ」
「い、今からで御座いますか」
「駄目かぃ?」
眉を下げ、更に僅かに目を伏せた。
普段強気を見せる己がこのような態度を見せれば恐らくと、相手方の反応を予測する。
勿論、その予想は外さない。
「…ああ…そのように言われますと………分かりました、お付き合い致しましょう」
「本当かぃ!」
少し肩を落としたようなバシットゥを前に、クライズクラウはぱしりと両手を叩いた。からんと揺れたランプの灯が辺りを疎らに照らす。
「じゃあさ、また旦那が神官だったときの話してくれよ。大神殿でのことがいいな」
「クラウ様は本当、その話が好きでいらっしゃいますね」
バシットゥは小さな子供に聞かすように言うと小さく笑った。まるで子に絵本を強請られた親のようだ。
流石にそれには少し照れ臭く、意味もなく笑ってしまう。
そして勿論、と頷き答える。
「折角大神殿の神官様が居るんだ、今の内に沢山聞かせてくれよ。あ、休憩用の天幕行こうぜ、後チャイと茶菓子も貰ってこようか!」
「そうお急ぎにならずとも、ああ、お待ち下さい!」
急ぎ足に歩み出すクライズクラウを慌ててバシットゥが追い掛ける。
出稼ぎの為に故郷を出てきたが、こうして憧れていた存在と話が出来るなぞと思っていただろか。護衛のついでにせびるのが常であったが、落着いて話を聞けるのなら仕事を暇にさせてしまった地下道にも感謝してもいいだろう。
今夜もまた、楽しい夜になりそうだ。

――――――――――――――――――――――――――――
バシットゥ(@夜鳥さん)お借りしました。

神官への憧れ意識はデフォルトです。(・ω・)b
ついでにクライズクラウの女性らしさはこれがMAXでs
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