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常に無謀で向う見ず
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Side:C
【遺跡道での一芝居】

(本編続きから)

寝苦しさに身体を起こすと、窓から差し込む西日に目が眩んだ。
折角開けたばかりの目を閉ざす。暑さと外の喧騒から、丁度昼時を過ぎた頃だろうか。つまり、今が一番日差しが強い時刻ということだ。それはどうりで、寝苦しい。
少し寝過ぎたかと、クライズクラウは苦笑する。いつもならばこの時期は次の街へと移動する為、準備に忙しくしている頃だ。勿論荷造りをするという意味もあるが、それは身体についても言えることだ。
星読みであるクライズクラウであれば、一番重要なのは生活のリズムだ。夜に仕事する身である故にこの時期から昼夜を逆にした生活に慣れさせなければならない。
それが滞在期間が延びたが為か、身体が混乱してしまったらしい。
自分の体たらくさに息を付き、中途半端に被ったままの毛布を剥ぎ取った。

粗方の身支度を済ませ、男物の衣服に袖を通す。
最後の仕上げに長く伸びた黒髪をターバンの中に押し込めれば完成だ。これで余程勘が良い人物でない限り、男に見せることが出来るだろう。
しかしこのままだらだらしていても、余計に身体が怠けてしまう。クライズクラウは外へと足を向けた。
隊商宿から外へ出れば、遺跡目当ての観光客や学者で街道は賑やかであった。
多くの街外の者が集まるこの街道は、それ目当ての土産物屋も多い。クライズクラウ自身もこの街へ着いた頃はシーリーンと共に土産物巡りをしたものだ。勿論、どれもありきたりな観光地の土産物なのだが、見ている分には楽しくもある。
だが、流石にそれも飽きてしまった。午前を無駄に過ごしてしまったのだから、どうせなら有意義に過ごしたい。
どちらにしろこの街道から離れた方がいいだろう。折角だと、遺跡の方へと歩を進めることにする。

遺跡に近付くにつれ、人影が疎らになる。この時間は大方遺跡に潜っているのだろうか。
外でこの暑さだ、意外と遺跡の方が涼しいのかも知れない。いや、逆に蒸し暑いのだろうか。どちらにしろ、行く用事はないのだが。
しかしこれだけ人が居ないのなら、まだ店を巡っていた方が面白みがあっただろうか。引き返そうか、そう踵を返しかけたとき視界の隅で何かが動いた。
砂埃で見え難かったが、其処には三、四人程居るようだ。何やら言い争うような、そんな声が忙しなく重なり合っている。
いざこざであるならば、巻き込まれないよう避けて通るのが正しい判断だろう。だが、そこを素通りするようには出来ていないのがクライズクラウであった。
少なくとも自分が割り込めるような内容であるか、それだけでも確かめておきたいのである。足取りは迷わず、その方へと動いていた。

「何度言えば分って下さるのですか」
「そう無理に断らねぇでも良いだろ?」
声が明確に届く距離まで来た。その内の一つ、どうやらクライズクラウには聞き覚えがある声のようだ。
砂埃が風に流され、どうにか状況が見えるようになる。壁を背に一人、それを囲うように三人。
見知った顔が、頭を壁に当て勘弁してくれというように肩を下ろす。その肩にさらりと落ちる金の髪は、いつ見ても綺麗だと思う。
「別にいいだろ、姉さん。こんなトコに居るより俺達と遊ぼうぜ」
「ですから、私は男ですと言っているでしょう」
この押問答を繰り返しているのか、先から相手をしている――リラはもはや疲れ切っているようだった。
成程、リラを女性と見間違え誘っているのか。何処か愉快な展開だが、さてどうするか。
ぱしり、と男がリラの手を掴む。
「おい、もう面倒だ。ちょっと付いてきて貰おうぜ」
一人がそう言うと、他の男もそれが良いと頷き品の無い笑い声を交わす。その行為にリラの整った眉が寄せられる。
首を巡らせ男の手を見遣れば、忌々しげに唇を噛締める。その瞬間に、はっとしたように顔を上げた。
彼のその夕日に似た目と、自分の黒の目とが合った気がした。

不意にリラを掴む手が弾かれた。女だと思い油断していたのだろう、彼の振り切る腕に男が対応出来なかったのだ。
怯んだ男の脇を縫い、リラは駆け出す。そして低い姿勢のまま、クライズクラウの眼前で動きを止める。
今までのんびりと構えていたせいか、其処へ至るまでの動きがとても素早いものに見えた。勢いに押され、一つ後ろへと下がる。
「どうした、リラのだん」
旦那、そう言いかけたとき一本の指がそれを制した。
「…おい」
低く、それでいて微かな声が届く。
「少し芝居に付き合え」
有無を言わさぬ物言いに返す言葉を考えあぐねる。だが、リラはそんな暇も与えてはくれないようだ。
先程まで厳しい表情をしていた筈が、一瞬にして晴れやかな顔を作る。
声を制していた指を下げ、その手を柔らかくクライズクラウの手に添えた。
「お待ちしておりましたクライズクラウ様、いつまでも来て下さらないので心配しておりました」
その声色はまるで長く待ち侘びていた焦れ人と漸く再会出来たような、そんな晴れやかさを纏っていた。
勿論リラとは何も約束事などなく、クライズクラウは眼を数回瞬かす。
だがそれも束の間のこと、勘は決して悪い方ではない。すぐに彼が何を考えているのか読み取った。
そしてすぐさまに、それに乗ることを決める。
「…おぅ、悪ぃな待たせてよ!」
一見すると大袈裟かと思う程に声を上げ、やはり大袈裟にリラの背を叩く。
実際そうだったのか、リラから短く声が漏れた気がした。だが、ここは気にしないでおく。
「今日は確か芸人のステージを見に行く約束だったよな?」
「えぇそうです、早く参りましょう」
矢継ぎ早に交わされる言葉に、三人の男は唯茫然とする。その隙にクライズクラウがリラを先導する形で男たちから離れて行く。
やがて二人の背が見えなくなり、残された男たちの内一人が呟いた。
「………チッ、なんだ、紐付きかよ」



大きな通りに差し掛かろうとしたとき、リラが半歩前へと進み小道へと逸れる。周りに人が居ないことを確認するとクライズクラウを呼び寄せた。
「…一応言っておく、助かった」
明るい顔を仕舞い、不機嫌さを露にする。余程先程の相手に堪えていたのか、いつもの澄ました彼を想像すると笑いが漏れた。
「いいって、どうせ俺が来なくてもなんとかするつもりだったんだろ?」
「騒ぎ起こさないで済むなら越したことはねぇよ」
「だろうな」
さて、とクライズクラウは言葉を区切る。そして楽しげな、意地の悪い顔をリラへと向ける。
「どうする?ついでにステージでも見に行くかぃ?」
「…俺がどう返事するか分かって言ってるだろ」
からかわれているとリラも既に見抜いているのだろう。その素気ない返事にまた笑う。
彼の返事通り、頷くことはないだろうと思っていた問いだ。むしろ良しと言われたらどうしようかと考えた程だ。
「つれねぇな旦那。じゃあ」
リラの額に腕を伸ばす。そして二本の指を其処へ弾いた。
「こいつは一つ、貸しとくぜ」

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リラ(@村崎さん)お借りしました。

リラさんに「芝居に付き合え」を言わせたかったなんて言えn
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