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常に無謀で向う見ず
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Side:C
【掛糸】

(本編続きから)

かたん、と続いていた機織りの音が止んだ。
羊糸を紡いでいた杼を傍らに置き、薄らと汗で滲んだ額を服の端で拭う。機織りとは、思う以上に精神が磨り減る作業である。
細く整った指先で布面をなぞり、慎重にそれを織機から外す。職人のように凝った模様を描けはしないが、それでも素人なりに遜色ない出来には仕上がっているだろう。思わず出た自負が何処か莫迦らしく、内心で笑ってしまう。
仕上がったばかりの絨毯を広げ、クライズクラウはこれまで先生としていた少年を呼んだ。
「坊主、こんなんでいいか?」
絨毯職人を目指すというカウスは織られたばかりのそれを受け取ると、わぁと声を上げた。
「凄い!お兄さん器用だね!」
「そうかぃ?問題ねぇようなら良かったぜ」
どうやらこの少年はクライズクラウを男として見ているようだった。彼女もそれを面白がっているようで、特に否定もなしにここまで来てしまった。

彼女の織った絨毯は合格を貰えたらしく、漸く詰っていた息を吐くことが出来た。
そもそも、織ったと言っても途中まで織り上がっていたものを仕上げただけではあったのだが。それでもこれだけ息が詰まるのだから、一貫して織りあげる職人には頭が下がる。
逸らした身体を手で支え、上を見遣る。ずっと同じ姿勢で居た為だろうか、伸びた筋の彼方此方から音が聞こえるようだ。
暫くそうしているとカウスが覗き込むようにして顔を見せた。
「はい、これが約束の羊糸だよ。これにお願い事してね」
差し出された羊糸は今まで織っていたものよりも淡い色をしている。やはり特殊な染め方をしているのだろうか。
少年の手からそれを受け取り、手繰る。
「なぁ坊主」
織ったばかりの布をくい、と引き、少年を呼び止める。
「夢織りの絨毯ってのは、他のトコにも送れたりするのかぃ?」
カウスは一瞬きょとんとした表情を見せたが、すぐに意を解したように頷いた。
「うん、仕入れに来た商人に頼めばすぐさ。どの辺り?」
「氷の町まで届けられれば後はどうにかなるな」
「氷の町なら丁度其処から来てた人が居たよ、後で頼んでおくね」
「悪ぃな、ありがとよ」
頼まれ事が嬉しいのか少年は照れ臭そうに笑い、早速とばかりに駆けて行った。

部屋に一人残されたクライズクラウは改めて羊糸を見遣る。
この糸に願いをかけ、模様の間に織り込むとその願いが叶うと言う。幼い頃、ムダッリシからも御伽噺のように聞かされ、今は自分たちが孤児たちに聞かせている話だ。
その夢織りの絨毯が目の前に届けられたとしたらどれ程喜ぶだろうか。考えるだけで思わず顔がほころぶ。

今はこのぐらいのことしか出来ないのだ。それでも少しでも楽になるようにと、喜んでくれるようにと積み重ねていくしかないのだ。
羊糸を額に当て、抱き込むように顔を覆う。
嗚呼どうか、家が、家族が、幸せであるように。私の帰る場所がなくならないように。

――――――――――――――――――――――――――――

今更ながらに夢織りの。
後に思うのは個人個人に絨毯織ってたら赤字ってLvじゃな(ry
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