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常に無謀で向う見ず
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Side:B
【繕い事】

(本編続きから)

珍しく、その日には暇が出来ていた。
普段であればイヴォンカやグレナディナから薬草の選定といった仕事を貰うのだが、この町に着いてからは双方共忙しく走り回っているようだ。
バラカートもマリーヘから絨毯織りの少年の話は聞いていた。家族の身体が悪いらしく、二人もその看病に当たっているのだろう。
仕事を手伝っているとは言うものの、看病事となれば出る幕もない。更に言えばそこへ仕事を強請るのも野暮なものだ。収入が乏しくなるが、仕方ない。

そうは割り切っていても、バラカートはこうして暇が出来るとどうにも気持ちが落着かない男であった。
本来の今日やるべき仕事はとうに終えていた。良かったら手伝ってくれと言われた絨毯織りも、特別器用というわけでもなく進んでこなす性分でもない。
外に出て何か用事を探そうという案は、日に焼ける危険性を考え早々に己が内で却下されている。
やがて男は考えを放棄するようにその場に身を投げた。他の者であればたまにはこういう日も良いと穏やかに過ごすのだろうが、バラカートにとって暇というのは思う以上に毒であった。
どうにもこうにも、落着かない。何となくそのまま横に転がれば、ふと己の手が目に入る。
暫く何かを考えたかと思えば、思い立ったように男は鞄を手繰り寄せた。

「何をしておる」
声の先に顔を向けると、そこには見知った顔があった。見知った、というよりもいつもの顔と言った方がいいのかも知れない。
「…スィニエーリ、一言かけてから入ったらどうだ」
「今更構わぬであろう。なんじゃ、恥じらいでもあるのかや?」
小さく、それでも可笑しそうにスィニエーリは笑う。
眼前の男が普段より軽装なのも彼女の目には可笑しく映っているのかも知れない。薄手の袖無しという服装は、とても外では見かけられない姿だろう。
「別にそういう意味で言ってるんじゃねぇよ」
バラカートがぶっきらぼうに答えると、彼女は分かっておると短く返す。
そのまま散かる荷物を軽く跳ねるように避け、スィニエーリは男に近寄った。もはや慣れているというところなのだろうが、見事なものだ。
「…して、何をしておる?それはそなたの服であろう」
つい、とバラカートの手先を示す。そこには男が普段着用している浅葱色をした衣服があった。
手の位置から着替えの途中というわけでも、整えのなさから整理の最中というわけでもないようだ。
男は生地の下に隠れていた片手を見えるように出す。手には裁縫用の針が握られていた。
「大分解れてきたからな、繕ってた」
そう言ったとき、ほんの僅かであるが彼女の目が開かれたように見えた。どうやら少し驚いたようだ。
「………器用なものじゃの」
「意外とでも言いたそうだな」
余った糸を処理すると、男はその糸を噛み切った。スィニエーリがその手元を覗くと成程、綺麗というわけではないが解れた箇所がしっかりと縫い合わされている。
よくよく見ると他にも縫われた箇所が幾つかあるようだ。恐らく、こうして繕いながら長く着ていたのだろう。

新しい糸を針に通す途中、バラカートがその顔を上げた。
「そういえば、何か用か?」
その問いにおや、とスィニエーリはわざとらしく小首を傾げる。
「用がなくとも構わぬであろう」
「…別に構わねぇし、なければないでいいんだが」
他の奴なら追い出すがと付け加え、また針を進め始めた。
何気ない言葉だ。言葉の意味をそのまま流してしまいそうな程に。
だから、スィニエーリも一度流されそうになってしまった。気恥ずかしさに顔を伏せ、どうにか返す言葉が纏まったのは男が既に視線を手元へ戻した後だった。
結局、何も言わずに男の隣に腰かけた。

改めて男の手元を見遣る。
距離を置いて見れば鮮やかである浅葱の色だったが、こうして近くで見ると大分褪せているようだ。
何度も解れ破れ、その度に縫い合わせたことによってか生地同士が引っ張り合い薄くなっている箇所もある。
そろそろこうして直すのも限界だろう。
横で男がまたぷつりと糸を噛み切った。
「………用が欲しくば作れぬこともないがの…」
スィニエーリは軽い手つきでその浅葱を手に取った。
男はつと、眉を寄せる。
「なんだ?」
その問いに一つ縫い目を撫でた後、美しく整った口元を微笑ませた。
「そなたも少々蓄えはあるじゃろう」
「蓄えって程はない」
「じゃがある程度は備えておろう」
「…何が言いたい」
それに答えぬまま彼女は男の手を両手で包み、男の目の前に立つとそのまま軽く引っ張る。どうやら男を立たせようとしているようだが、その様子がどこか楽しげでまるで子供のようだ。
意図が掴めぬまま、バラカートはその手に引き上げられるよう立ち上がる。
一度視線を合わせ、やはり楽しそうに彼女は言う。

「出掛けるぞ、見繕うてやろう」
更にスィニエーリは男の手を引く。
対してバラカートも手を引き返す。何を言い出すか、そう言いたそうな顔だ。
「…お前、俺が何してるか分かってるだろ」
「そなたも何れそれが直せぬようになると分かっているであろう」
「…」
図星のようだ。苦虫を潰したような顔を思わず逸らすと、苦し紛れに言葉を吐く。
「…だからって、別に今じゃなくても」
「買い替えるには丁度良い時期ではないかや。この砂漠に此処以上の織物はなかろう、安くとも丈夫な生地もあると思うがの」
「だがな…」
渋るのは懐具合の性か、それとも貧乏性か。バラカートは中々頷こうとはしない。
だが、それで解放するような彼女でもない。
「安心せい、そなたの予算に間に合うよう選んでやろう。いつも慌ただしいそなたじゃ、このような日でもなければ行けぬじゃろう?」
どうにか連れ出そうとスィニエーリは男の手を握ったまま天幕の出入り口に近付いていく。
バラカートも時期はともかく新調するつもりがなかったと言えば嘘になる。腹を括ったように一つ息をつく。
だが、その前に一つだけ言うことがあった。
「…分かった、分かったから」

「行く前に、服だけは着させろ」
日に焼けるようなことだけは、是が非でも避けたかった。

――――――――――――――――――――――――――――
スィニエーリ(@秋野綾さん)お借りしました。

衣装案秋野さんから頂いた!と言ったらたまださんに「スィニ様のチョイスですよね!」と言われたのでそのままネタ頂きました!
買い物シーンはどうぞ妄想して下さい。^q^

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