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常に無謀で向う見ず
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Side:C
【白の】

(本編続きから)


さくりさくりと音がする。砂を踏みしめる音だ。
足音はとある天幕の前で止まり、確認するようにそれを見渡すと入り口を開けた。

「よぉ、邪魔すんぜ」
クライズクラウは天幕の中の人物を確認すると軽く片手をあげた。
調べ物をしていたのか、天幕の主―アジャルは走らせていたペンの動きを止めた。振り返り客を見ると嗚呼、と声を返す。
「クライズクラウさん、珍しいですね。どうかしましたか」
「いや、白の坊主に用ってわけじゃねぇんだけどよ。リーン来てねぇか?」
そう言いながらも目を左右に動かし天幕の中を見遣る。どうやら、シーリーンを探しているらしい。
アジャルは来ていないと首を横に振る。
「今日は見てないです、何か御用でも?」
「おぅ、って言ってもちょっと歌の練習でも聞かせて貰おうって思っただけなんだけどな。…しっかし此処にもいねぇってのも珍しいな…天幕にも居なかったし」
「シーリーンならアムスと出かけたけど」
奥から二人とは別の声がした。
クライズクラウがその方を見遣ると少年が一人、此方に軽く手を振っていた。どうやら詰まれた蔵書で見えにくくなっていたようだ。
「なんだガドゥの坊主も居たのか。そうか、黒の旦那と一緒じゃ仕方ねぇな」
また後にするかと、一人言ちた。

やがて一つ頷くと、クライズクラウはアジャルに向き直った。
「それじゃ白の坊主、リーンと黒の旦那が戻ってきたら宜しく言っておいてくれよ。坊主も元気でな」
「えぇ、言っておきます」
「じゃ、また―」
「ちょっと待てよ」
布に手を掛けようとしたとき、ガドゥが呼び止める。その顔はどこか不満気である。
呼び止められる理由もその表情にも思い当たる節がないのか、クライズクラウは首を傾げた。
「どうしたんだい、坊主」
「だから、その呼び方!」
ガドゥは更に言葉を強める。対して意図がまだ掴めないと女は眉をひそめる。
なんのことかと一先ずアジャルに問いかける。
「白の坊主なんか知ってるかぃ?」
「いや?俺も良く分からないけど…」
「それがおかしい、って言ってるんだ!」
クライズクラウとアジャルはお互いに目を合わせた。
全く分からないという様子の二人にガドゥは痺れを切らしたようだ。

「兄貴とアムスは白とか黒とかつけてんのに、なんで俺だけなんもねぇんだよ!」
ガドゥは不満を口にする。
一瞬だけ目を開くが、すぐになんだそんなことかとクライズクラウは軽く笑う。
「なんだぃ、坊主も何か欲しかったのか」
「欲しいとかそんなんじゃなくてさ。俺は兄貴の弟だぞ、なのにアムスがあって俺がないってのもさ」
どうやらあだ名がないのが不満ではなく、一人だけないというのが不満であるらしい。
特に深くは考えていなかったのだろう、クライズクラウは首を捻る。
「って言ってもなぁ…白の坊主じゃアジャルと被るし、坊主は『白』って感じでもねぇしな…アジャルはどうよ」
「俺もそう呼んでと言ったわけじゃありませんから」
アジャルは頬をかきながら返答に困りがちだ。
そもそもこの呼び方はアジャルとアムスィを対比して思った呼び方である。特に深い理由があるわけでもなく、態々考えるような付け方でもない。
女はどうしたものかと考える風を見せるが、ガドゥは抗議の視線を送ることを止めない。それは呼び名が欲しいというよりは、一度言った手前引くに引けなくなったという雰囲気を見せる。
その様子が面白く、思うと同時にからかいたいという気持ちが疼く。
それなら、と女の口が動く。
「こんなのはどうだ?」
「え、何」
思わずガドゥも身を乗り出す。
クライズクラウの人差し指が少年を示した。そして意地らしく、にぃ、と笑う。

「白の小僧」

そう言葉として出た瞬間、アジャルから笑いが吹き出す音が聞こえた。本で顔を隠し誤魔化しているようだが肩が小刻みに動いているのが分かる。
対してガドゥは流石に気に触れたようだ。目を見開き、吼える。
「バッカ!そんなのいいわけねぇだろ!!」
「あっはっは、悪ぃ悪ぃ坊主!」
その様子がまだまだ歳を重ねきらない少年という印象を強くさせ、クライズクラウは思い切り少年の髪をかき回す。
あまり強い力ではなかったが勢いの力に負け、どうにかその手を無理矢理退かせたのは大分髪をぐしゃぐしゃにされてからだった。
「止めろってば!」
「悪ぃ悪ぃ。じゃ、坊主の機嫌が悪くならねぇうちにさっさと戻るぜ」
「あ、嗚呼、気をつけて」
ずっと声に出して笑うのを我慢していたのかどこか辛そうにアジャルが返す。
その後ろではガドゥがまだ抗議の声を上げている。
クライズクラウは面白がっている様子を隠すこともなく一つ笑うと、逃げるようにまた砂を踏みしめた。

――――――――――――――――――――――――――――
アジャル・ガドゥ(@シマムラさん)お借りしました。

からかうのは愛情表現なのでs


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